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新潟地方裁判所 昭和33年(行)1号 判決 1958年5月02日

原告 大滝伊八 外一名

被告 山北村議会・山北村長

主文

原告らの訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告両名訴訟代理人は、『(一)被告議会が昭和三十二年十二月十三日なした「原告両名を右同日より三日間出席を停止する旨の懲罰決議」が無効であることを確認する。(二)被告議会が右同日なした「新潟県岩船郡山北村役場位置条例の一部を改正する条例の議案を可決する旨を決議」が無効であることを確認する。(三)被告村長が昭和三十二年十二月十七日告示第五十二号をもつてなした「新潟県岩船郡山北村役場の位置条例の一部を改正する条例の告示」が無効であることを確認する。もし、右(一)及び(三)の請求が理由のないものであるときは、(一)被告議会が昭和三十二年十二月十三日なした「原告両名を右同日より三日間出席を停止する旨の懲罰決議」を取消す。(二)被告村長が昭和三十二年十二月十七日告示第五十二号をもつてなした「新潟県岩船郡山北村役場の位置条例の一部を改正する条例の告示」を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。』との判決を求め、その請求の原因として、『(一)新潟県岩船郡の旧下海府村、同黒川俣村、同八幡村、同大川谷村及び同中俣村の五ケ村は昭和三十年三月三十一日合併し、新潟県岩船郡山北村となつたものであり、原告らは同村議会の議員であるが、その昭和三十二年第十回定例議会は同年十二月二日招集され、同日「新潟県岩船郡山北村役場位置条例の一部を改正する条例」(以下位置条例の一部改正条例と略称する)の制定に関する議案を含む十三の議案が付議され、会期は二週間と定められて、休会に入つた後、同議会は同月十三日再開され、原告らも出席した。(二)ところで位置条例の一部改正条例の制定は地方自治法第四条第三項によりいわゆる特別決議事項として出席議員の三分の二以上の同意を要するものとされているのであるが、右議会における同議案に対する賛否の勢力配分は賛成十六、反対九で否決の形勢にあつたので、その可決通過を図る多数派はあらゆる奸計を用いて反対派の切り萠しに狂奔したが、反の結束が強固であつたため功を奏せず、遂に策に窮した結果反対派の中心人物と目せられる原告両名を右議案に関する表決から排除するに若かずとなし、開会の劈頭賛成派を代表した議員木村覚禅は「原告両名はかつて山北村の合併促進委員となりこれが遂行の衝に当つていたのにもかかわらず、今日に至つて位置条例の一部改正条例の制定に反対し、議事を混乱に陥れていることは懲罰に値するものであり、三日間の出席停止が相当である」旨の動議を提出し、該動議は、原告両名を退席させたうえ、採決の結果、賛成十四、反対八で可決された。かくして位置条例の一部改正条例の制定に関する議案は右同日賛成十六、反対七をもつて可決され、被告村長は同月十七日告示第五十二号をもつて右条例を公布した。(三)しかしながら(い)先ず、原告両名に対する右の懲罰決議は、次のように違法なものであり無効であるか、又は少くとも取り消さるべきものといわなければならない。すなわち、被告議会の会議規則第八十八条は「懲罰の動議は文書をもつて所定の発議者が連署して議長に提出しなければならない。前項の動議は懲罰事犯のあつた日の会議の散会又は閉会前に提出しなければならない」と規定し、懲罰事由は動議提出当日の事犯でなければならない旨を明らかにしているのであるが、前記懲罰動議が会議の劈頭において提出されたものであることは前記のとおりであつて、動議提出当時原告らに懲罰を云々されるような行動をなす時間的余裕がなかつたのであるから、結局前記懲罰決議は何等懲罰の対象となすべき行為が存在しないのにもかかわらず、懲罰に名を藉りて反対派の表決権の行使を封殺せんと図つたものに外ならないのである。(ろ)次に、位置条例の一部改正条例の制定に関する議案が可決されるに至つたのは、前記のとおり、同議案に反対であると目せられた原告両名の表決権を剥奪して――何等懲罰事由もないのに、専らその表決権の剥奪を企図して原告両名を懲罰に付することにより――違法になされたものであるから、右条例の可決々議は当然無効であるといわなければならない。(は)最後に、以上のように、位置条例の一部改正条例の可決決議が無効であるとすれば、同条例の告示もまた当然違法であつて、無効であるか、又は、少くとも取消を免れないというべきところ、被告村長は議長より右条例の送付を受けた当時前述の違法決議の事情を熟知していたのであるから、当然地方自治法第百七十六条に基き再議に付する等の権利を行使して右条例の効力の発生を阻止すべきであつたのにもかかわらず、これを承認のうえ告示して、被告議会の不法行為に加担し、もつて原告両名が議員として有する権利(右条例が再議に付された場合に、原告らが行使し得べき表決権を含む)を侵害したものといわなければならない。(四)よつて、原告らは、前記懲罰決議、位置条例の一部改正条例の可決々議及び同条例の告示がいずれも無効であることの確認を求め、もし右懲罰決議及び条例の告示の無効確認を求める請求が理由のない場合は、各その取消を求めるものである。』と述べた。

被告両名訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その理由として、「原告らの本件懲罰決議の無効確認又は取消を求める請求は、右懲罰の内容とされている出席停止期間が既に経過しているから、右決議の効力を争い、その無効確認又は取消を訴求する利益がなく、従つて、不適法として却下さるべきであり、次に、位置条例の一部改正条例の可決決議及び同条例の告示の各無効確認又は取消を求める請求もまた、畢竟するに右の条例そのものの効力を争うことに帰着すると解すべきところ、右の条例は原告らの権利義務に直接影響を及ぼすものではないから、不適法として却下されるべきである。」と述べた。

理由

先ず、本件懲罰決議の無効確認又は取消を求める請求の適否について検討する。原告らの主張によれば、本件懲罰の内容は昭和三十二年十二月十三日より三日間原告両名の出席を停止するというに在るところ、現在その期間は既に経過していることが明らかであり、その処分自体の効力を争うことはもはや法律上何等の実益がないというべきであるから、右決議の無効確認又は取消を求める請求は不適法として却下すべきである。

次に、本件位置条例の一部改正条例の可決決議及び同条例の公布(原告らは条例の告示という字句を使用しているが、これは地方自治法第十六条第二項にいわゆる条例の公布を指称しているものと思われる)の無効確認又は取消を求める請求について、その適否を考察する。地方公共団体の議会の議決は、その団体としての内部的な意思の決定であるにとどまり、特別の場合を除いては、直接これにより個人の権利又は法律関係が変動を生ぜしめられるというわけのものではなく、また右条例の内容が村役場の位置を定めるものであることは原告らの主張するところであるから、同条例の公布があつたからといつて、直ちにこれが原告らの法律上の地位に影響を及ぼすものとはいえないから、原告らとしては右の決議及び公布の効力を争う何等の利益もないというべきである。もつとも、この点につき原告らは右の決議及び公布によりその議員として有する表決権を違法に侵害されたと主張し、その意味で裁判所による救済を求めているもののようであるが、しかしながら、裁判所の行うべき審判の及ぶ範囲は、個人が「一般市民」として有する法律上の地位乃至権利義務に直接関係ある場合に限られ、右のように「一般市民」としての立場を離れ、「村会議員」としての立場において有する権利に関するような場合までも――特に法律の規定がない限り――これを含むものでないことは憲法下の裁判所の職能からみて蓋し当然であるといわなければならない。従つて、位置条例の一部改正条例の可決決議及び同条例の告示の無効確認又は取消を求める請求もまた不適法として却下を免れない。

よつて、原告両名の本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士 真船孝允 土屋一英)

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